国税不服審判所で納税者が勝てば、そしてキスゲと紫君子蘭
 先日、ここで森トラストさんの国税不服審判所での裁決結果のことを書きましたら、
 ご質問を戴きました。
 ありがとうございます。

 つまり、こんな150億円もの税金の取り戻しができて、
 国税はむちゃくちゃ口惜しいだろうから、今度は裁判に上げて、
 次に裁判で納税者が負けたら、また納めなくちゃならないのか?
 そんな多額の税金が行ったり来たりするのか?というご質問です。

 ☆  ☆  ☆

 はい、それはないんですね。

 結論から言えば、国税不服審判所で国税さんが負けた(「取消」といいます。)場合、
 裁決を不服として、国税さんは「訴訟」に上げることはできません。

 ここで、ジ・エンド。決着です。
 森トラさんは還付を受けた税金を二度と払うことはありません。

 ☆  ☆  ☆

 このあたりの行政手続の流れって、分かりにくいかもと思いましたので、
 ちょっとおさらいしてみましょう。

 そもそも、
 税務調査で、例えば、納税者は1万円として申告していて、調査官は10万円だ、と主張した場合。

 まず、調査官は、10万円として申告しなさいよ、という
 修正申告の勧奨(かんしょう=すすめること)ができます(国税通則法74条の11第3項)。

 ここで納税者が、本当は1万円なのにぃ、と思いつつ、
 調査官の言いなりに10万円として修正申告してしまうと、
 もう、それでその件については、10万円と認めたとして、そこで終わりです。
 もちろん、差額の9万円と過少申告加算税や延滞税を払います。
 納税者が、後で、やっぱり1万円が正しいぞ、と考え直しても、後の祭り、どうにもできません。

 納税者が、修正申告の勧奨に従わず、絶対1万円です!と主張して、
 国税は、10万円だと認定しようとするならば、
 国税が、10万円として、更正(こうせい)処分を行います。
 納税者は、更正通知を受けて、差額の9万円と過少申告加算税や延滞税を払います。

 もちろん、それは納税者の本意ではありませんから、
 納税者は、更正処分を受けたら、今度は税務署長に対して2ヶ月以内に異議申立てをします。
(青色申告の場合は、異議申立てを飛ばして、直接審査請求することもできますが、
 所得税の譲渡所得や相続税申告などの場合は、まず異議申立てが必要です。)

 税務署長が、異議申立について審査して、3ヶ月以内に異議決定処分をします。

 税務署長が、おいおい、あの調査官は、とんでもないことを現場でやってるな、と判断して、
 はい、おっしゃるとおり1万円が正しいですね、と認めれば、これで解決、
 追徴された9万円+加算税延滞税モロモロ+還付加算金(遅れ利息)が戻ります、というのは条文上。

 通常、更正処分を打つときは、ちゃんと税務署の上部や国税局等の審理を経ているので、
 こんなことは、たぶん、マレなんでしょうね。

 そりゃあウチの調査官の言う通り10万円だろっ、という税務署長の異議決定だった場合、
 納税者が、そんなバカな!と思えば、
 異議決定書が届いてから1ヶ月以内に、国税不服審判所に、審査請求を行うことができます。

 国税不服審判所の審判官は、今でこそ、民間精通者もなれますが、
 以前は大半は、国税出身者だったので、
 所詮、税務署と同じ穴のムジナじゃん、などと揶揄されたものです。

 そして国税不服審判所での審判で、請求人(納税者)と国税の丁々発止の結果、裁決が下されます。

 もともと、審査請求が法律に則っていないときは、却下、つまり門前払いですね。
 税務署の処分(原処分)が正しい、となれば、棄却、
 一部は請求人(納税者)の言い分もアリだね、というときは、一部取消、
 なるほど、請求人(納税者)の言うとおりだね、となれば、全部取消、となります。

 といっても、取消になるのは、全体の8%位だそうですから、
 審査請求で、もともとの税務署の処分をひっくり返すのは、なかなか大変です。

 ☆  ☆  ☆

 さて、絶対に、1万円だ、と確信してたのに、納税者が審査請求で却下や棄却とされちゃった。
 その場合は、6ヶ月以内に、晴れて(?)裁判に「原処分取消訴訟」として上げることができます。

 反対に、審査請求人(納税者)が、審判所で認められて、原処分取消の裁決を受けた場合、
 納税者は、差額の9万円+加算税モロモロを取り戻すことができます。

 今回のように、審査請求人(納税者=森トラストさん)が、原処分取消の裁決を受けた場合、
 国税は、森トラストさんに対して、既に収納した150億円の本税と加算税モロモロを還付します。

 ☆  ☆  ☆
 
 そして! 審判所で負けた国税は、どんなにクヤしくても、訴訟を提起することはできません。

 国税不服審判所のホームページで次のように説明されています。
 「国税不服審判所長の裁決は行政部内における最終判断ですから、
 税務署長等が仮にこれに不服があっても訴訟を提起することはできません。」

 つまり、森トラストさんが、審判所で勝った=取消処分を獲得したのですから、
 これにて一件落着、となります。
  
 ☆  ☆  ☆

 と、ルル書きましたが、
 実は、弊社では固定資産税以外で、異議申立や審査請求って、1件もやってません。(^^ゞ
 
 研究会などでは、事案に対する意見書をどう書くかの助言や意見を述べたりしますが、
 弊社のお客様に関しては、全く事例がありません。
 というわけで、そこのところはよろしく、です。(^^)

 ありがとうございました。

 ☆  ☆  ☆

 事務所ビルの公開空地は、キスゲの群生です。
 キスゲは、ニッコウキスゲのような黄色が多いと思いますが、
 ここのは赤や黄、ピンクととても華やかです。
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 紫君子蘭も、どんどん開きます。大輪です。
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by expresstax | 2015-06-18 23:59 | 法律

税理士飯塚美幸のひとことメッセージ
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 この職業を選んだのも、たった一度の人生で、いろんなお立場の、いろんな職業のお客様と人生をともにして生きていく素晴らしさと醍醐味を知ってしまったから。
 相手を信じて情熱で意気投合してしまう。
 税理士の仕事は、お客様の人生と懐にしっかりと寄り添って、ともに手を携えて生きていくことだと信じる。 

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