同族への土地賃貸の契約は定借?無償返還届出?
 個人地主様の土地を、同族の会社が借り受けて建物を建てるとき、
 そのままなら、借地借家法の普通借地権とされて、

 借地権利金を会社から払うのが慣行の地域なら、
 会社が借地権利金を払うと、地主様は借地権の譲渡課税を受けてしまいます。

 同族間で貸借するだけなのに、法人はお金を払い、個人はそこから税負担を受ける、
 受けた権利金の手取りには、将来相続税がかかる、となりますから、
 そんなことをする人はいません。

 では、権利金を払わないとどうなるか、というと、
 他人だったら権利金を払わないと貸してもらえないのに、
 権利金を払わないというのは、権利金分だけ、贈与を受けてるでしょ、と、
 会社が、権利金相当額の受贈益について法人税課税をうけてしまいます。
 これも困る。

 それを避けるために、借地権は生じませんよ、将来無償で返しますよ、という契約の結び方には、
 2通りあります。

 1つは、定期借地権(借地借家法22条~24条)で契約すること。
 定期借地権は、期間の定めを置くこと、更新や建物増築等での期間延長をしないこと、
 建物買取をしないことを要件に、借主が更新の権利を持ちません。

 もう1つは、普通借地権として土地賃貸借契約を結ぶけど、
 将来期間満了時に無償で借地権を返還することを定め、
 税務署に、土地の無償返還に関する届出書を提出すること。
 これで、借地権権利金の課税をしないよ、となります。
 (法人税法基本通達13-1-7権利金の認定見合わせ)

 ただ、上記には次の違いがあるんですね。

1.契約方式の違い
(1)定期借地権の場合は、特に事業用借地権は、必ず公正証書契約が必要なんです。
 となると、公証人さんの手数料が、地代の10年分をベースに計算されるので、
 コスト高になります。
 
(2)無償返還届出方式の場合は、同族間の契約ですから、書面契約だけでよく、
 税務署に届出を出すには、土地の財産評価額(相続税評価額)の計算をするので、
 費用はかかっても税理士さんの報酬くらいですね。

 ちなみに、土地賃貸借契約の印紙税も、権利金を払わなければ非課税です。

 それでも、「わしはこの契約の証明がほしいんじゃぁ」、という御仁は、
 公証役場で確定日付(日付のハンコをぽん!と押してもらうこと)を700円で取ればよろしい。

2.底地評価の違い
(1)定期借地権の底地は、
 ①更地評価-複利年金現価率で計算した定期借地権価額 と、
 ②残存期間15年超までは80%、その後5年ごとに5%アップした評価額と、
 ③ どちらか低い方 となります。
 つまり、期間の経過で、個人地主の相続税評価はどんどん上がって、
 最後には更地価格になってしまいます。

(2)無償返還届出方式の底地は、
 契約解除まで、ず~っと、更地評価×80% です。

3.保証金授受がある場合の債務控除額の違い
(1)定期借地権方式で、会社から個人地主に保証金を支払っていた場合、
 将来個人地主の相続時に債務として引ける額は、
 保証金元本額×複利現価率 だけなのですね。
 期間満了時に返還額=元本に膨らむ予定の種金部分しか、ひけないという扱いです。
 そんな不合理な、といいたくなる扱いなのですが、裁判でも、納税者が完全にベタ負けしています。

(2)無償返還届出方式の場合は、普通借地権として設定しますから、同族間では、保証金は通常採用しません。

 ということで、並べてみると、同族間の土地の賃貸借には、
 定期借地権方式ですと、コスト高、税務上2点で不利、というトリプルパンチで、
 実務では、ほとんど採用されず、
 無償返還届出方式で実行されているのです。

 同族間の賃貸で、期間が来たから取り壊せ、という規定は、
 全く意味ないだけでなく、ほんとにそうなったら、困ってしまうからです。

 そもそも、定期借地権は、他人間の契約で、普通借地権では永久に土地が戻ってこない、と
 土地所有者が貸し渋りしたために、
 土地利用を流動化しようと、借地借家法で盛り込まれた法律です。

 他人間でこそ、普通借地権での借地人の過剰な権利を認めないという定期借地権の意味が生きてくるんですから、同族間でこの制度を持ち込むのは、あまり得策とはいえません。

 こうした法律の意味をよく考えて、的確に、簡単に、楽に、安く、安全に、目的を達成する仕組み作りをしたいものですね。 
by expresstax | 2012-10-23 23:53 | 不動産

税理士飯塚美幸のひとことメッセージ
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 この職業を選んだのも、たった一度の人生で、いろんなお立場の、いろんな職業のお客様と人生をともにして生きていく素晴らしさと醍醐味を知ってしまったから。
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 税理士の仕事は、お客様の人生と懐にしっかりと寄り添って、ともに手を携えて生きていくことだと信じる。 

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