税法の思想と、変容・1
 確定申告のお客様。
 ご親族を亡くされていたのですね。
 お辛いことで、さっそくおくやみをお送りしました。

 ところで、年の途中で、扶養親族を亡くされた場合の扶養控除。
 どの時点で判断するかの問題です。

 一般的には、12月31日で判定するんですが(所得税法85条2項)、年の途中で亡くなった場合は、死亡のときの現況による、とはっきり規定しています。

 このときの考え方なんですね。

 例えば、扶養親族が、年の途中で亡くなった場合、

1.1年まるまるは扶養していなかったのだから、扶養控除38万円を全額控除するのは、不公平だとする考え方。

2.亡くなるときまで扶養してたのに、12月末まで扶養していなかったからといって、死亡時まで扶養していた事実をなきこととして、扶養控除できないとするのは、かわいそうだ、不公平だ、と見る考え方。

 理屈上は、二通りの考え方ができるのでしょう。

 そうしたときに、どちらの立場に立つか。

 税法は、後者の立場をとってるんですね。

 それは、そもそも、所得控除自体が、雑損控除や医療費控除、人的控除など、
 たいへんだね、困ったね、かわいそうだね、という状態に対する
 税負担の軽減の思想から設定されている制度だからというのが、ひとつ。

 もうひとつは、税法の基本の考え方として、納税者有利という考え方が根底にあるからです。
 年の中途まで扶養していた事実について、
 その事実をもって、納税者有利に認めるか、
 その事実を全否定して、切り捨てるか、です。
 そのときは、納税者有利に、救済の方向で、規定するという現在の日本の税法の思想です。

 だから、上記所得税法85条の2項を知らなくても、
 税法の基本の考え方に沿うならば、

 あれ?
 年の中途まで扶養していた事実があるのに、
 それをなかったものとしてしまうのは、かわいそうじゃない?という
 税の思想に対する「センス」が働くべきなのです。

 税法のこうした思想は、さらに、立法趣旨や政策趣旨のなかで具体化されます。

 税法の条文の一字一句は、もちろん尊重されるべきですが、
 その根底にある法律の思想や立法趣旨を理解するところから、取扱を考えないと、
 根底から誤ることになってしまうのです。

 私は、こうした日本の税法の基本の部分にある考え方に
 それなりの法の「暖かさ」・「人間くささ」を感じていたのですが、
 近年、この思想が、確実に変容してきているように感じます。

 これまでの立法にあった税法の思想を、
 極めてイージーな形式的な排除主義・教条主義のなかで、
 切り捨てていこうとする流れを感じるのです。

 それは、年の中途で扶養親族を亡くした扶養者に対して、
 1年まるまる扶養していないんだから、控除は不公平、として切り捨てるような、
 血の流れない冷たさに共通しているように思うのです。
 
 とても残念に思っています。
 また改めて書きたいと思います。
by expresstax | 2010-03-08 23:32 | 研究

税理士飯塚美幸のひとことメッセージ
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 この職業を選んだのも、たった一度の人生で、いろんなお立場の、いろんな職業のお客様と人生をともにして生きていく素晴らしさと醍醐味を知ってしまったから。
 相手を信じて情熱で意気投合してしまう。
 税理士の仕事は、お客様の人生と懐にしっかりと寄り添って、ともに手を携えて生きていくことだと信じる。 

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