相続で、意に反して、兄上の自宅の敷地を相続させられてしまった弟様。
なんとまあ、困った話ですが、実は、よくあります。
相続税の申告期限に迫られて、後先考えずに遺産分割してしまった様子が見て取れます。
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兄上は、近くの市街地農地を相続取得されています。
それで、弟の持つ兄の自宅の敷地と、兄の農地を交換すれば、兄は、土地家屋とも自分の土地になり、弟は、農地を売却して、現金化することができます。
評価額は、ほぼ一緒になるそうです。
こんな交換が可能でしょうか?
そのままではアウトです。
固定資産の交換特例(所得税法58条)の要件のひとつに、同種の資産を交換して同一用途に供すること、というのがあります。
土地と土地の交換ですから、同種資産要件は、OK。
農地と宅地の交換では、用途が違うので、ダメなんですね。
兄上が、農地と同一用途にするために、自宅敷地を畑に耕せば、なんて、マンガみたいな話しになります。
で、検討していただいて、兄上が、農地を転用して宅地にしてから、然る後、交換。
こうすれば、OKです。
通常は、農転に時間やお金がかかるので、腰砕けになりがちなんですが、今回は、兄上が「俺が造成費を出そうじゃないか」と英断なさったところがポイントです。
ご相続から3年内なので、相続税を譲渡原価算入できる取得費加算特例が使えます。
固定資産の交換は、譲渡をなかったものと見なすので、この取得費加算が使えるんだろうか、もったいない、という疑問が次に出たようです。
これも、OKです。
売却して現金化するのは、弟様。
弟様は、兄自宅敷地を時価で売って、元農地を時価で取得して、民法上の交換をしますが、兄自宅敷地の売却について、所得税法の交換特例は適用せずに、自己否認します。
相続取得で、土地はほとんど含み益。含み益を実現して、譲渡所得が算定されます。
このとき、取得費加算制度を適用して、譲渡税をほとんどゼロにします。
そしてすぐさま、交換取得した元農地を第三者に売却しますが、そのときは、元農地の売却原価は、時価まで引き上がっていますから、譲渡所得はゼロ。
つまり、譲渡税はかからずに済みます。
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ご相談者様は、安心なさったようでした。
ただ。
兄上が負担なさる造成費が、交換価格の2割をオーバーしないよう、要注意です。
さらに。
本当は、そもそも、ご相続の時点で、兄自宅敷地は兄が、売却予定農地は、弟が、と遺産分けできていれば、登記の登録免許税は、相続登記の際の、当時0.2%で済んでいたはず。
今回は、交換したことにより、兄は、相続登記費用+交換登記+不動産取得税、弟は相続登記費用+交換登記費用+不動産取得税が、よけいにずっしり、かかってしまいます。
それでも、放置するより、100倍、ましです。
ご兄弟のご決断、それを支援なさっている相談者様に拍手、です。
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不具合な権利関係は、一刻も早く調整して、解消すべきです。
遅れれば遅れるほど、泥沼になります。
そこに、税務判断と意思決定の重要性があります。